雨上がりの夜、日曜日という事もあって客足は少なかった。
店には常連の女性客が1人。
常連といってもマスターが店を始める前からの知り合いなので気心は知れていて
マスターも寛ぎながら接客というより雑談めいた感じで営業をしていた。
「あ~ぁ、今日はヒマかな~?」なんて言いながら鶏の手羽を焼くマスター。
鶏の手羽を塩コショウとガーリックでスパイシーに焼いて2本で380円、
美味いのだが、そのままの形で出すと骨があるため食べずらいし手が汚れるので
先っぽの細い部分は切り落として骨の繋ぎ目に隠し包丁を入れるとそのまま箸でも簡単に食べる事が出来る。
女性客も訪れる事が多いマスターのちょっとした気配りでもある。
そこにプロレス観戦仲間の客が訪れてビールを注文して飲みながら雑談やプロレス談義が始まった。
彼のお気に入りは「屋台風イカ焼」イカをフライパンでこんがり焼いて酒と醤油ベースのタレをかけて焼くと
焦げた醤油から祭りの縁日のような香ばしい香りが店いっぱいに広がって食欲をそそる。
女性客はマスターと同じ年代なのだが、ふくよかで穏やかな雰囲気に加え控えめで聞き上手なので、若い常連客の中には母親のように慕っている者もいる。
彼もその1人で、世間話を楽しんだり時には悩みを打ち明けたりしながらこの日も楽しく飲んでいた。
そろそろ閉店時間という頃にマスターが「みんな腹へってないかい?」と切り出すと、
常連男性が「ちょっと軽く行きますか?」と話に乗ってきて3人は近くのラーメン屋にラーメンを食べに行く事にした。
店にいる時はカウンターという壁を隔てて会話しているけれど、不思議なものでこの1枚の板が仕事とプライベートとの大きな境界線になっているのである。
その壁がない世界でこうしてプライベートで飲むのもお互いに新鮮な感じが心地よい時間を醸し出すのである。
結局ラーメン屋に行っても餃子やお新香、レバニラなどをつまみに飲みながら色々と話をしながら閉店時間になってしまい店を後にした。
ほろ酔い加減で家路に歩くマスターの頬を雨上がりの優しい風が撫でていった。
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